【死ンデ、イル 主人公・七海によせて】 村田千尋 @chiiimuuu1003

 行方不明となった女子高生・七海の目線で、物語は紡がれていく。
JK時代の女の子の無敵感から来る無鉄砲な”イタさ”と、それによる失敗を乗り越えての成長を描いた映画を、この一年以内に2本観た。「スウィートセブンティーンモンスター」と「レディーバード」なのだが、どちらも傑作だった。楽しくて「あぁ、こんなこともあったなぁ」って恥ずかしいんだけど懐かしくも感じたりして、最後には「私も大人になっちまったんだなぁ」なんてほろりときたりなんかして…。
 今回の「死ンデ、イル」にも同じにおいを確かに感じたのだ。華の女子高生ならではの悩みや葛藤。大人と子供の境目で、どちらに寄ればいいのかも分らなくて。少女は迷い傷つきながら成長していく。誰になんと言われようと、私はこの物語を「少女の成長譚」と言いたい。・・・のだけど、成長の末に、どうしてこうなっちゃったのかなぁ・・・と、胸をかきむしられる。
先に述べた2本の映画は、成長の末、広い視野を手に入れた少女が、大股で世界に飛び出していくところで終わる。彼女たちには未来しか見えない。希望しかない。でも七海は――・・・。きっと、その少し広がった視野で改めて自分の状況を見て、絶望してしまったんだろうなぁと思う。

 七海はスケッチブックに、自分の思いの丈を綴っていた。それが時折、舞台奥のスクリーンに映し出される。誰にも話せない、彼女の本音が、可愛い文字で綴られている。
実は、私自身もかつて高校生の頃、むしゃくしゃすることがあった時に文字を書き殴る用のノートというものを作っていた。そして今もとっておいてある。中身は将来への不安と期待、自己嫌悪、そして両親への不満。バイトも始められるし、中学の時は禁止されていた子供だけでカラオケやゲームセンターに行くのもOKになって、確実に自分が行き来できる世界は広がっているのに、周りの環境が飛び立つのを許してくれない。
ムカつくのだ、本当に。自分はこんなもんじゃない、こんなもんで終わったりしやしないのに、なんで止められなきゃいけないんだ。と、常に腹の底でうねっているマグマを、時々ささいなきっかけで爆発させていた。私の場合は主に母親に、泣きながら不満をぶつけていた。ぶつけても大抵は解決しないから、また我慢する日々が始まる。そしてまた爆発する。
 七海は精一杯制御していた。みんな辛いのだ、自分だけじゃないのだ、と。たびたびスクリーンに映し出される「生きてるだけで儲けもん」という、彼女の嫌いな言葉。災害以降、大人がたびたび口にするようになった言葉だ。大人たちは自分たちを鼓舞するための言葉として使っているけれど、彼女にとっては「生きているだけで幸せなんだから、このくらい我慢しなさい」という呪いの言葉。精一杯、それに従って、どんなに傷ついても口をつぐんで抵抗せず、ひたすら耐え続ける七海は、痛々しかった。でも、頭の中をぐるぐると回る彼女の本音が、ノートに綴られたのを見たとき、「あぁ、彼女は傷つきながらも成長している。大人に近づいて行っている」と思った。高校生特有の、頭の中のぐちゃぐちゃを一生懸命見つめて、言葉にして、整理していく。自分がなんでムカついているのか、何にムカついているのか、じゃあどうしたらこのムカつきは解消できるのか、が徐々に分かっていって、改めて世間とか周りの環境を見つめる機会にもなったりして、じゃあここいらで折り合いつけるかな、なんて大人な考えが出てきたりなんかして。そうやって少女は成長していく。…のだけど。
 七海も普通の高校生らしくそうやって、見つめ直して、折り合いをつけよう、と思ったのだ。きっと。でも彼女の周りの環境、世間は、私や「レディーバード」「スウィートセブンティーンモンスター」のそれとは全く異なっていたのだ。たまたま。たまたま震災が起きて、周りの大人も被災していて、誰一人余裕がなくて、我慢を強いられていて…そんな状況で、「折り合いをつけよう」なんて、とてもじゃないけど言えなかったのだ。
 きっとここまで考えて、悩みぬいて、自分だけでなく周りの状況も鑑みて、考えた末の結論だったからこそ、七海は悲劇に向かって迷いなく歩みを進めていったのだろう。本来なら、輝かしい未来に大股で踏み込んでいくはずの無敵な女子高生が、成長の末に、ある意味納得の上で選んだ道。哀しくてならない。最終的に私は、あんなことさえ起きなければ、というありきたりな言葉しか言えなくなってしまった。

 私はたまたま七海に対して異常に感情移入してしまったので、このような感想になったのだけれど、きっとほかの登場人物にも同じくらい深く感情移入することができる作品だと思う。それくらい、全員実際に存在する人物なのではないか?と思うほどのリアル感があった。そしてリアル感があるお陰で、より現実世界に置き換えて「もし自分がこのような状況になったら、この悲劇を回避するには、、、」と深く考えることができた。
 余裕のない世の中、社会になっていっていると感じる今日この頃だけれども、この物語のような哀しいことが起こって良い理由にはならないから、じゃあそれを起こさないように何ができるか、日々よく考えていきたいと思う。そんなきっかけを与えてくださったことを、この作品に感謝したい。

P.S.
蓬莱さんはどうしてこんなに女子高生の内側を知っているのか。ちょっと恐ろしくなりました。だってあの頃の胸の内というのは、女子にとっては黒歴史の宝庫で、よっぽどのことがあっても他人に話したりなんかしないし、話されたとしてもこんなリアルに描くことは不可能に近いのでは?もしかして…蓬莱さんって、女子高生やったことある???
…なんてことまで考えちゃいました。素敵な観劇体験をありがとうございました。

公演は29日(日)までとあとわずかです。
ぜひ東京芸術劇場へ。