演劇を見て、その感想を人様にお見せする文章にまとめるというのは、慣れないことであり、わたくし、かなり不安ですが、頑張って書いてみたいと思います。読めるものになりますように……。

モダンスイマーズ『死ンデ、イル』7/20 19:00の回
「呼吸困難するすべての人へ」

 高井七海は、福岡県浪江町に住む女子高生。
 この浪江町は、2011年3月の東日本大震災時に発生した第一原子力発電所の事故により、「帰宅困難地域」に設定された地域だ。
 浪江町の住民は、二本松市の仮設住宅に移り住むこととなる。だけど、七海達は仮設住宅ではなく、二本松市にある、叔母ユウコの家に居候をさせてもらうことになる。

 浪江町から二本松市までは(七海とユウコの家の場所が正確には分からないので想定だけど)、約60km。車で1時間20分、歩くと11時間40分。
 余談ですが、グーグルマップで二本松市から浪江町までの「電車」での経路を調べると、
【「浪江町 双葉郡 福島県」 から 「二本松市、福島県」 までの乗換案内を計算できませんでした】
と表示される。「帰宅困難地域」に電車は走らない。まあ、当たり前か……。

 叔母のユウコの家では、たったひとつ、空いている部屋に七海のお姉ちゃんとその旦那が陣取って、七海はユウコ叔母さんと同じ部屋に寝ることになった。
 お父さんとお母さんは、もう何年も前に、いない。

 もう、最近では浪江町に帰りたい、と言わなくなった彼氏の翔。もっと都会の郡山市に行こうよ。電車で行って、ふたりで1600円。高いなあ、と、翔は話す。翔とは、浪江町時代から付き合っている。

 つっけんどんだったユウコ叔母さんは、だんだんと笑顔を見せるようになった。
 一つ屋根の下、みんなで遊び、笑いあうこともあった。

 だけど、七海という少女は、だんだんと首を締められていくような、呼吸困難に陥っていく。
 七海の身に起きるできごとは、すべて七海の手を、足を、首を、絡め取って動けなくするように作用してしまう。
 死んでいるのに、そこに存在している、不思議な生命体になっていく。

* * *

 ハイ! では、ここで、わたし(この文章を書いているわたしです)の過去を振り返るコーナー!
 パッパラー!(いきなりだな……)
 これは、わたしが七海ちゃんの日々を見て、なぜだか思い出した、苦しい思い出たちであります(陰気な話ですみませんと、先に謝っておきます……)。

・自分の部屋は与えられず、家族とは大部屋で川の字で寝た。
・わたしに手紙が送られてくると、それがハガキの形式であれば母はわたしより先に全て読んでしまっていたし、手紙だって、わたしが開封した後に読んでいた。わたしは、自分専用のポストが欲しい、と、思った。
・小学三年生、胸が膨らみ始めた。母はわたしの体をふざけて触ってくる。わたしは母に殺意さえ覚えた。
・生理が始まった頃、わたしが妹とお風呂に入りたくない、と母に訴えると、「妹だってじき始まるんだから」と、一緒に入らされた。「図工の時間に赤い絵の具を全身にかぶっちゃって……」という妹への言い訳、今思い出しても胸にキリキリと刺さる恥ずかしさ。
・一緒に住んでいた祖母は、いつだってわたしたちの胃がパンパンに膨らんでいないと気が済まない人だった。「もっと食べなさい、もっと!」と強要されるご飯は、苦痛だった。
・ある日、(今から思えば精神的に参っていて)習い事をサボった。母に見つかった時、少しホッとした。わたしは、母と話す機会を与えられたんだ、と思ったから。泣きじゃくりながら主張したが、母は「サボった分の月謝を返せ」と、わたしの頬を叩いた。
・泣きたい時に、ひとりで泣く場所が、なかった。
・地上にいるのに、いつも溺れているみたいに息が苦しかった。
・家にいるのに「帰りたい」という言葉が口癖になっていた。
・お母さんは隣に寝ているのに、背を向けて寝て、どこか遠くへ向けて「お母さん」と呟くことが多くなった。
・自分が死ぬのを想像して、安心するのが日課になった。

 けれど、今では離れて暮らす家族は、うっとおしいことも多々あるけれど、悪人ではなく……、それが、非常に厄介なところなのだ。

* * *

 七海がもう、いよいよ息ができなくなり始めている段階、過去の息苦しさをたたえたわたしは、七海の、これ以上ない理解者になったつもりで観客席から力の限り呼びかけていた。
「七海ちゃん、わたしが話を聴くよ、わたしが、とにかく君の話を聴くよ……!」
 わたしなら聴いてあげられると思った。何時間でも、聴いてあげられるだろう。あの、君の周りの登場人物たちみたいに、話の腰を折って遮ったりしない。私が話を聴くから……! ふたりで話そう……!

 しかし、わたしの心の声をかき消すように、男がこう言い放ち、

「アンタ、恵まれてんだろ?」

 わたしは、閉口してしまった。

 ああ……、ああ……。
 ああ……。どうしよう。
 わたしも、わたしも……、七海を恵まれている、と、ちょっと思っていた。細いし可愛いし、彼氏だっているし! わたしの息苦しかった時代とは大違い。絵だって上手いし。わたしもあなたみたいな女の子だったら、どれだけ楽しかったことか。それに、まだ若い。なんでも出来る。恵まれている。恵まれているよ、あなた。

 わたしは自分の本音に驚き、すっかり黙ってしまって、前後不覚状態の女子高生の姿を眺めていた。
 「人が怖い」と、七海はスケッチブックに書く。鉛筆で。
 ヘッドフォンをつけ、もう外の音は聴こえていないようだ。
 それでなくとも、わたしは、もう七海に呼びかけるのをやめていた。
 わたしは、彼女の話を少しでも聴くことができるだろうか。あの登場人物たちみたいに、話の腰を折るのではないか。遮って、また首を締めるのではないか。手や足をがんじがらめにするのではないか。

 二本松市から浪江町までは、約60km。車で1時間弱、歩くと11時間40分。
 自分では何も「選べない」女子高生が、初めて選んで行動する。

「七海は○○を見たことがないんです」
 七海の姉の言葉に皆、驚く。え。なぜ? なぜなのか?
 手を伸ばせばすぐに届く距離、だけど伸ばした手を幾度も引っ込めてしまった、
 出かけた言葉を、幾度も飲み込んでしまった七海、
 車で行けばすぐの距離、でも、電車で行くか歩くしか、手段がない高校生。
「帰宅困難地」には電車が通っていない。当たり前だけど……。

 七海ちゃん……七海ちゃん……七海…………。
 待って…………。

 涙が出たら、泣けたら、叫べたら、どんなにいいかと思うことがある。
 そういう人間をひとりにすると、自分が欲しい何かを求めて、永遠に彷徨い歩くことができてしまう。

 七海、待って。
 わたしも一緒に泣かせて、叫ばせて……。

 心が高校生に戻っていくような気持ちになった。
 青臭さと胸を刺すような痛みと、虚しさと無気力感と、息苦しさ。
 あの頃に戻って、あの頃の体と心で泣き、喚き、叫べたなら……。

* * *

 と、なんとも、中途半端な感想(?)になってしまいました。どうしよう……。しかもすごく恥ずかしい……。
 モダンスイマーズの公演、恥ずかしながら初めて拝見したのですが、本当にとても良かったです。
 ……なんか、アレですね。
 SNSの投稿に、何かしらのリアクションをしたいんだけど、「いいね!」ボタンしかない時のような感覚になっております。仕方ないので「いいね!」って押すんだけど、良くはないという……。心中複雑だという……。分かりにくい例え……。

 ネタバレにならないように書いたつもりなのですが、そういう書き方が初めてだったので、かなり読みにくいものになっている予感がいたします。中途半端で申し訳ございません(言い訳と謝罪ばかり口にするヤツ……)。

 『死ンデ、イル』は7月29日まで公演中ですので、皆さんぜひ足をお運びいただき、ぜひ、わたしと感想を語り合いましょう!
 そ、それでは!(逃)

いのうえもも(inoue_Q)